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相談を拒否された理由は「女性じゃないから」

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父としての始まり

カズさん(仮名・30代)は、落ち着いた声で話す男性です。
日記を見ながら当時を振り返ってくれました。

「息子は予定よりも早く生まれ、低体重のため、退院まで時間が掛かりました」
「出産日から退院日まで、毎日病院に通いました。看護師に『また来たんですか』と感心されるほどでした」

カズさんは育児休業を取得しました。

「夜泣きの世話は自分が担当しました。妻に少しでも寝てもらいたくて」
「夜のミルク、抱っこ、朝ごはんの準備。会社よりもずっと忙しかったです」
「息子は生後6か月頃からよく寝てくれるようになりました」

絵本の読み聞かせも熱心でした。

「図書館によく通って、読んだ本をアプリに記録しました」
「その数は1年弱で500冊以上。自分でもびっくりしています」
「同じ本を20回読んだこともあります。息子の反応が良かったので」

イメージ画像:子にミルクをあげる父親

日常に潜む言葉の暴力

ところが、そんな日常の中に暴力的な言葉があふれていました。

「家でも外でも、お店でも罵られました」
「ごめんなさいと言うと、『私が悪者みたいじゃないか!』とさらに怒鳴られるんです」
「買い物中には『なぜこれを買った』と舌打ちされる」
「お得なはずの買い物が、精神的に高くつく。そんな日もありました」
「『購入予定のないものを会話に出すな』とか
『子どもが笑っているのは、あなたに気を使っているからだ』とか」

「はい、以外は言わないこと。無表情でいるよう気を付けること。
そんな自分への注意も日記に書かれています」
「何より、子どもの前で大声を出されるのが、辛かったです」

実は、子どもが生まれる前から、カズさんは妻の言葉に苦しみ、心療内科に通っていました。
妻も、カズさんに勧められて数回は受診しましたが、やがて足が遠のいていました。

イメージ画像:暴力的な妻

コロナ禍の孤立とケーキ事件

2021年春。
新型コロナウィルスが流行する中、夫婦そろって育児休業に入っていました。
外出制限などで他人との交流は極端に減っていた時期です。
孤立した生活のなかで、ストレスが積み重なったのでしょうか。
カズさんが帰宅途中にケーキを買った日に、それは起こりました。

「妻をねぎらいたかったんです。甘いものが少しでも気持ちを和らげるかと思って」
「でも『おいしくない! こんなもので機嫌をとってるつもりか!』と言われ、
そこから3時間ほど口論は続きました」
「普段と違ったのは、その日執拗に『出ていけ!』と言われ、追い出されたことです」
「鞄ひとつ持って、完全に家から締め出されました」


半年後に妻が家を引き払うまで、私物を取りに戻ることもできなかったといいます。

ネットカフェでの生活と弁護士からの通知

「その日からネットカフェで寝泊まりしました。」
「いつか戻れるかもしれない、そう思うとすぐに新しい部屋の契約はできませんでした」
「息子はすぐ近くにいるのに、会えない。それが一番つらかったです」

やがてウィークリーマンションを借り、転々と暮らす日々が続きます。
結局自宅に戻る事ができず、半年後に新たな部屋を借りることになったのです。

男性の相談は対象外

心身ともに追い詰められた彼は、何度もDV相談の窓口に電話しました。
しかし返ってきた答えは、信じられないものでした。

「ある窓口では『男性は対象外です』と言ってガチャっと電話を切られました」

「別の窓口では話を聞いてくれたけど、「その後の対応はできません」と言われました」
「『それはおそらくDVだと思います』と認めながら『でも男性は対象外なんです』と言われるんです」

性別が理由で拒まれた彼は、結局何の支援にも辿り着けず、
いわば、診断だけ無料、治療は無しの世界だったのです。

フリマサイトで見つけた息子への贈り物

半年以上経ってから、弁護士同士の交渉を通じて数回だけ息子と会うことができたカズさん。

「誕生日プレゼントを渡したとき、小さな手で受け取ってくれたのが嬉しかったです」
「しばらくして、プレゼントがフリマサイトで売られているのを見つけてしまったんです」
「証拠がありました。息子に渡したものと完全に一致していました」

さらに、妻は父と子の交流を強く拒み始めます。

「調停のたびに理由は変わる。結局は会わせないための口実に聞こえました。
息子が2歳を迎えてからの1年間で会えたのは、わずか2時間ほどです」

傷ついても他者を思いやる心

深く傷つきながらも、カズさんは他人を思いやる心を失いませんでした。

「同じように苦しむ親子を助けたいと思い、支援団体に参加しました」
「親と交流する子どもの受け渡しも手伝いました」

自分の息子には会えないのに、他人の子どもの送り迎えをする。

その矛盾を受け入れての優しい行動でした。

職場の理解が救いに

理不尽な出来事を職場に隠さず伝えてきたカズさん。

「他部署にも伝わっていて、役員から『最近子どもと会えてる?』と声をかけられたこともあります」
「裁判所に行くときは業務を調整してくれました」
「DV被害を打ち明けるのには勇気が必要でしたが、職場の理解が支えになりました」
「聞いてくれる人がいて、救われました」

怒りではなく、社会の変化を願って

ここまで追い詰められながらも、カズさんは妻を強く責めようとはしません。

「怒りや恨みの言葉ではなく、社会の変化を願う声をあげたいんです」

「こんな目に遭う親子を、これ以上増やしたくないから」


その想いには、知人の言葉が影響していると語ります。

「出会いに感謝する気持ちがあるからこそ、怒りにとらわれず、本来あるべき姿を求めて声を上げたい」

その言葉に心を打たれたと、カズさんは振り返ります。

「自分にはそこまで大人の対応はできないかもしれない」
「でも、同じように苦しむ親子のために。そして息子のために、声を上げ続けたいと思います」

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